TACHIHI

TACHIHI BREWERY

立飛、ビール、
未来へ

立川立飛発、これからの
クラフトビール文化の
基地が
育ちはじめた

西国立にあった東京・地ビールの老舗「カミカゼビール」を礎に、「立飛麦酒」は新たな歩みを始め、立川発の世界に挑み続けるビールへ大きな一歩を進めています。ららぽーと立川立飛の南側に佇むモダンな建物の麦酒醸造所が、これからのクラフトビール文化のアイコンとなる日を夢見る。その始まりと予見のものがたりです。

受け継ぐもの
×
再構築

金 炳泰

株式会社
立飛ホスピタリティマネジメント
立飛麦酒醸造所副醸造長

―― 立飛麦酒醸造所が立ち上がる経緯について、教えてください。

高橋 薫(以下、高橋):西国立にあった「無門庵」(現在の「オーベルジュ ときと」の所在地、「無門庵」は特攻隊が出征前に祝杯を挙げていた場所としても利用された歴史がある)の横に「カミカゼビール」という地ビール工場があり、私はそこで20年ほどビール造りに従事していました。無門庵がその歴史に一区切りをつけるタイミングで、立飛ホールディングスが無門庵を譲り受け、その流れの中で、同じ場所で営まれていたカミカゼビールの事業と想いも引き継ぐことになりました。

当初はその場所で続けていたのですが、設備が老朽化しており、工場もさほど広くはありませんでした。それで新しく建て直してくださるということになり、2019年に現在の場所へビール工場を新設することになったという経緯があります。

でも移転が決まっても、やはりすぐには製造できないわけです。醸造機材の選定など、さまざまなことを検討します。この建物自体のデザインも含め、一進一退を繰り返し、かたちになっていきました。

――当初は、どういうクラフトビールを目指そうと考えたのですか。

高橋:「立川で造るということに意味がある」と考えていました。当時の醸造長とともに、立川出身の職人が立川で造るということを熱く語り合っていましたね。

―― 移転が決まってこの場所を決めてから、どのくらいの準備期間で、どんなご苦労がありましたか?

金 炳泰(以下、金):ここの開業が2021年なので、開業まで2年ぐらいです。

金 炳泰

株式会社
立飛ホスピタリティマネジメント
立飛麦酒醸造所副醸造長

高橋:苦労したことはあまりなくて、「立川らしさ=きれいな美味しいビール」を追求していきました。万人受けする、飲みやすい、おいしいビールでありたいと。
ただ、当時はこの建物の隣に大きな池のような雨水槽があって、当初、その場所は埋めてはいけないという話だったので、すごく不思議な空間に建っているビール工場でした(笑)。その後、周囲も整地され、とてもきれいな場所に建つ醸造所になりました。

―― 醸造所の色や内外装、ラベルのデザインは、何かこだわりがあったのでしょうか?

高橋:とにかくモダンな感じがいいというような提案はあったと思います。内装も少し落ち着いた黒っぽい感じにと、デザインしてくださった方と議論したように覚えています。

鶴岡 良祐(以下、鶴岡):資料で見たのですが、立飛ホールディングスがかつて飛行機を作っていた歴史を持つので、できるだけインダストリアルなデザインを意識しています。それで、ステンレスのシルバーと黒を基調にしたようです。建物の雰囲気も、立川の空や飛行機を思わせる雲をあしらったラベルデザインも、イメージを揃えています。

高橋:そうですね。ラベルについては、もともと「日本の空」をテーマに構想していて、最終的に現在のデザインになりました。

金:なかなか格好いいラベルだと感じていますが、より幅広いファンを獲得するためにセカンドラベルも作りました。

レギュラービールのラベルは、立飛ホールディングスがかつて飛行機を作っていた会社なので、飛行機の窓からのぞいた雲をモチーフとしたのだそうです。そうしたコンセプトを壊さずに、雲のイメージはそのまま残しつつ、当時製造していた練習機「赤とんぼ」が飛んでいるラベルに仕上げました。

―― このセカンドラベルは分かりやすいですね。立飛の歴史や大切にしているものがとても伝わる気がします。

歴史をつなぐもの

本物であること

鶴岡 良祐

株式会社
立飛ホスピタリティマネジメント
セールス&マーケティング ディレクター

―― 立飛ホールディングスの飛行機製造や、カミカゼビールのあった場所に由来する平和への想いのような歴史が刻んできたものを、立飛麦酒醸造所で紡いでいくことなどは意識しているのですか?

鶴岡:そうですね、強くあります。私は立飛麦酒醸造所に関わる前はSORANO HOTELの開業チームにいたのですが、その時から社長の村山は「中途半端なものは作るな」と強く示していました。いいものを作って、いい施設があれば、必ず人はついてくると。

その歴史を継ぐという会社の思いと、クラフトマンシップの思いを伝えていくのが営業である私たちの仕事という思いでずっとやってきました。前身のカミカゼビールのあった場所は、(特攻隊が出征前に祝杯を挙げていた場所)「無門庵」があった、重い歴史を持つ場所でもありましたが、やはり地元の人にすごく愛されていた場所だった。そこの歴史を継いだビールを皆さんに理解してもらうことは大事だと思っています。

―― そういうちょっと特別なものを最初から持っているクラフトビールって、他所にはほとんどないですね。

鶴岡:クラフトビールブームに乗っかっているというより、どちらかというと、その歴史を継いで本物を作っていくという覚悟で取り組んでいます。だから醸造免許も、当初から発泡酒免許ではなくてビール免許を取っているんです。

鶴岡 良祐

株式会社
立飛ホスピタリティマネジメント
セールス&マーケティング ディレクター

金:そうですね。発泡酒免許は醸造における制限が異なります。クラフトビールの良さって多様性があることでもあって、副原料をいっぱい使っている魅力的なビールも出回っています。ただ、ビール免許だと副原料の使用に制限があります。

表現できるスタイルに一定の制約はありますが、その一方でビール免許を活かして、食事にも合わせやすいベーシックな味わいを出せるという強みがあります。そこを個性としてお客さまに馴染んでいただけるような味わいを目指しています。

高橋:ビール免許って取得するのがすごく大変なんです。年間でこれだけ造って、これだけ売らなければいけないという基準があります。当初はいろんなところにお力をお借りしたと思います。

優しい醸造所
×
味わいの追求

―― 導入した醸造マシンのこだわりを教えてください

高橋:できるだけ扱いやすく、何かあった時にメンテナンスもしやすくて、あとはタンクをあまり大きくしないのがいいね、と。導入したブルーハウスというアメリカ製の醸造マシンに落ち着きました。このマシンは、本当に上手に使うととても便利にできています。

金:他のブルワリーなども見学していますが、ここの設備はほんとに優秀なので、状況を把握しながら他の作業にも取り組むことができます。

他の工程にもきちんと目を配りつつ作業を進められる点で、すごく醸造家にも優しい環境だと思っています。それから浄化槽も導入しています。器具やタンクなどを洗う時に、アルカリや酸性の洗浄液を使いますが、洗浄後そのまま排水するわけではなくて、一度中性に戻してから流せるようになっています。環境にも十分配慮した設備を最初から導入しています。

―― 味わいについてはどうでしょう。立飛麦酒醸造所としては、大きく3つのタイプ(ペールエール、ピルスナー、ヴァイツェン)を選ばれています。

金:私たちは2代目の醸造家で、今は私ともう1人の醸造家の藤川貴之がいます。受け継いだ時には、立ち上げ時のペールエール、ピルスナー、ヴァイツェンというレギュラービールが既に認知されていたこともあり、ビアスタイルはそのままに、レシピを改良して、それぞれ、より立飛麦酒醸造所の特性を出そうと思いました。

ペールエールの場合は、種類が幾つかありますが、アメリカンペールエールというビアスタイルを採用して、ホップのキャラクターが楽しめるビールとして出しています。ピルスナーだと、ラガー酵母を使っているので他のビールに比べて発酵期間が大体倍ぐらいかかります。じっくり発酵させることによって、モルト自体のコクや甘みを引き出し、モルトのキャラクターを生かしたビールとして出しています。
ヴァイツェンの場合は、バナナのような香りが特徴ですが、バナナの香料を入れているわけではなくて、酵母が発酵する時に出すエステルがバナナのような香りを出します。なのでヴァイツェンは酵母のキャラクターを生かしたビールとして出しています。

ビール製造
+
ビール文化製造へ

―― 今後、どういうビールに育てたいと思っていますか?

金:立飛グループ創立100周年の時、記念の限定ビールとしてオレンジラガーとブルーベリーサワーエールなど副原料を加えて個性のあるものを初めて造りました。ブルーベリーサワーエールのほうは、醸造家の目線から見ると結構いい出来になりました。

こうした試みのように、立川の特産物であるブルーベリーやウドなど、地域にちなんだビールも造りたいと考えています。また、現在ではビール造りの副産物であるモルト粕も立川や近隣地域の農家さんに渡しています。そのモルト粕が養分になって育った野菜をまたビールに使う、そういった取り組みも実現したいと思っています。

鶴岡:現代のクラフトビール文化は、やはり地域とつながりを持ったブランドがいいビールになっているものが多いと感じます。一番大きいところで言うと沖縄のオリオンビール。大阪の箕面ビールなども好例ですね。

第一に、地域の人に愛されるものになる、第二に、賞を取るようなものを造る。そして、立川や立飛の歴史を継いでやっていることを知ってもらうことだと思います。その3つをぶれずにやっていくことを地域の人に理解していただけて、地元自慢につながればいいなと願っています。

金:立飛麦酒醸造所としてできるものは、やはりおいしいビールを造っていくことです。他の有名なブルワリーのように名前を聞くとビール好きなら分かるよう、立飛麦酒醸造所と言えば立飛という場所が分かるような、立川や立飛のランドマークとして成り立ちたいなと思っています。

鶴岡:だから、賞をいただくのは嬉しいんです。これからも、評価の場には毎年挑戦していきたいと思っています。2022年はイギリスにWBA(WORLD BEER AWARDS)という鑑評会があり、そこでカントリーウィナーを取らせてもらいました。その後は国内のコンペ、JBC(JAPAN BREWERS CUP)やJGBA (JAPAN GREAT BEER AWARDS)やIBC(INTERNATIONAL BEER CUP)という大きなコンペでも受賞しています。

金:直近では、JBCで、ピルスナーが淡色ラガー部門で2位に選ばれました。JBCは、現役のブルワー達が審査するビール鑑評会という特徴がありますが、そこで2位を取らせてもらったのはとても嬉しかったです。醸造家的にはかなり誇れること。今後は1位を目指して挑戦していきたいと思っています。

また、認知度を上げるためにさまざまなイベントに出店し、立飛麦酒の名前を広げる試みを行なっています。そのイベントで飲んでくれたお客さまが、醸造所のタップルームまで飲みに来てくださったりしています。MAO RINKのオープン以降、滑った後にこちらに飲みに来てくださる方も。隣のクリニックで出産に立ちあわれたお父さんが、「今、生まれました」といった感じで来て、飲んでくださったりとか。

―― 忘れられない味でしょうね、お父さんにとっては、きっと。

金:そうですね。タップルーム自体、固定でスタッフを入れていないので、人手が足りなければ醸造家が立つこともあります。なので、タイミングが合えば一緒に話せる機会もあります。もし質問などがあって、その時にいたスタッフが答えられないものだったら、われわれが出てちょっと説明することもできます。

――日本にあまりない、稀有な歴史的背景を持つクラフトビールの工場が、立川立飛に生まれ、その味わいが、日本で、世界で注目されてきました。それだけでなく、今まさに生み出されていくクラフトビール製造を身近に見学でき、その新鮮な味わいをその場で体験できる環境で、醸造家たちと訪れる方々との素敵なコミュニケーションも芽生えている。世界に誇れる素敵な文化発信の拠点が立飛に育ちつつありますね。